個人再生の住宅ローン特則とは?支払いがあっても家を残せる3つの条件
自己破産の場合、住宅や自動車などの財産を処分しなければいけません。
その一方で、個人再生では「住宅ローン特則(特別条項)」を利用することで、マイホームを残したまま債務を減額できることが大きなメリットです。
また、連帯保証人に未払い分の請求が届くようなこともないため、連帯保証人に影響を与えないのもポイントです。
「住宅ローン特則」を使わない場合は、住宅ローンの残額を連帯保証人が支払う必要があります。
このような事情があることから、連帯保証人に迷惑をかけたくないならば住宅ローン特則を利用すると良いでしょう。
この記事では、「住宅ローン特則とは?」、「住宅ローン特則のメリットデメリット」などについて解説していきます。
家を失わずに済む「住宅ローン特則」とは?
住宅ローン特則とは、住宅ローンの返済を猶予してもらえる制度のことです。「住宅ローン特別条項」と呼ばれることもあります。
具体的には、住宅ローン特則は次のような特徴があります。
- 住宅ローンの返済スケジュールの組み直し(リスケ)ができる
- 住宅ローンの返済期間を最長10年間まで延長できる
- 自宅を残したまま、住宅ローン以外の借金を個人再生で減額できる
- 一括返済の要求など、連帯保証人への影響が出ない
住宅ローン特則の利用条件
こうしてみるとメリットの多い住宅ローン特則ですが、利用するにはそれなりの条件をクリアする必要があります。
住宅ローン特則を利用する場合、以下の条件を全て満たしていないと利用することはできません。
- 債務者が居住している住宅であること
- 債務者は法人ではなく個人であること
- 居住する建物の床面積の2分の1以上が居住用であること
- 住宅購入もしくは改良のための住宅ローンであるここと
- 住宅ローンが分割払いでの契約となっている
- 住宅に住宅ローン以外の抵当権がないこと
- 住宅に抵当権が付されていること
- 手続開始前までに住宅ローンの弁済がされていて、6ヶ月以上が経過していないこと
このように満たさないといけない条件は多いですため、個人再生を検討する前に確認しておきたいところです。
また、住宅ローン特則によって住宅を失わずに済むものの、個人再生後も変わらずに住宅ローンは支払っていかないといけません。
そのため、結局住宅ローンが返せずに返済計画が破綻してしまうこともあります。
こうなると自己破産しか現実的な選択肢はなくなってしまいますから、気軽に住宅ローン特則を利用する前に弁護士事務所に相談しておきましょう。
住宅ローンの支払いが出来るだけの継続的な収入が必要
住宅ローン特則では、個人再生後に自力で払っていかないといけませんから、滞りなく支払える継続的な収入が求められます。
そのため、高額の給料を得ていても収入が安定していない場合には、住宅ローン特則の利用が認められない可能性もあります。
受任通知が届いたタイミングで住宅ローンの督促が止まる
個人再生を弁護士に依頼すると、手続きが開始したタイミングで銀行や消費者金融などの債権者に対して「受任通知」を発送します。
この受任通知は”個人再生開始を知らせる”目的があるのですが、その他にも”受任通知を送ることで債権者からの取り立てをストップ”させる効果もあります。
住宅ローン特則を利用する場合には受任通知にそのことを記載しておく必要性もありますが、これによって連帯保証人に請求がいくといったことも防げます。
受任通知の発送自体は弁護士が行ってくれますから債務者自身は何もすることがありません。
もし督促などの取立行為をやめさせたいのであれば、弁護士に依頼をすれば最短即日で対応してもらえます。
メール相談だと、タイミング次第では後日の連絡となりますので、急いでいる場合は電話での相談が一番早くておすすめです。
住宅ローンを延滞・滞納していても特則は利用できる?
結論から言うと、住宅ローンを滞納していても住宅ローン特則を利用することは可能です。
例えば、住宅ローンを支払えずに返済を保証会社に代弁してもらっていた場合でも、6ヶ月以内であれば住宅ローン特則を利用できます。
反対に、6ヶ月以上にわたって住宅ローンの支払いができていないと、住宅ローン特則は利用できません。
住宅ローンを滞納してから競売にかけられるまでの流れ
住宅ローンの返済が3ヶ月以上滞ると、「期限の利益」を喪失します。
「期限の利益」とは、債務を分割で返済できる権利のこと。
「期限の利益」を喪失することで、ローン会社は債務者に対して一括返済を請求します。
そして通常の住宅ローンでは、保証会社が代わりに代位弁済を行うことになります。
代位弁済が始まると債権者がローン会社から保証会社に切り替わります。
これとともに住宅に付されている抵当権も保証会社に移行します。
この代位弁済後、一定期間が経過すると保証会社は住宅の抵当権を行使して住宅を競売にかけて処分することになります。
代位弁済から6ヶ月以内なら「巻き戻し」できる!?
以上のように住宅ローンを滞納することで、最終的には住宅が競売にかけられてしまいます。
ただ住宅ローン特則付きの個人再生をすれば、「住宅ローンの巻き戻し」ができるようになります。
保証会社が代位弁済する前の状態に戻すこと。
上記の『①3ヶ月以上の滞納で期限の利益が喪失』の前の状態にまで巻き戻すことができる。
この巻き戻しにより、期限の利益の喪失・抵当権の移行などが一旦取り消されますから、競売にかけられて住宅を取り上げられることもありません。
住宅ローンの巻き戻し自体は民事再生法204条「保証会社の債務履行の取り扱い」によって定められていますが、住宅を失いたくない人には大変ありがたい制度と言って良いでしょう。
6カ月を過ぎると「住宅ローンの巻き戻し」はできない
しかし、住宅ローンの巻き戻しは、住宅が入札されてしまう前までに行わないといけません。
そのため、余りにも個人再生手続きが遅れたり、保証会社が早めに抵当権を行使してしまうと、間に合わずに自宅を失ってしまうこともあります。
また、他にも競売がすでに実行されている場合、住宅ローンの巻き戻しをすることによってその競売費を支払わないといけなくなることもあります。
このような注意点もありますから、専門家としっかり連携の上で住宅ローン特則の利用を進めていきましょう。
個人再生をしても遅延損害金を支払わないといけない?
住宅ローンの支払いが滞っていると遅延損害金が発生することがあります。
この損害遅延金は再生計画案の確定までに支払う必要性がありますが、場合によっては原則3年間・最長5年間の分割払いができることもあります。
また、もしもこれでも難しい場合には、住宅ローンや損害遅延金の支払い期間を延長してもらうこともできるようになります。
それでも対応できない場合には、住宅ローンの元本や利息の一部を猶予・免除してもらうことも可能です。
クレジットカードやカードローンなどの借金が支払えない場合にも損害遅延金が発生することがあります。
こうした損害遅延金は個人再生計画案が認可されると減額されますが、完全にゼロになるわけではありません。
加えて、個人再生で全く減額がされないような債権もあることを確認しておきましょう。
例えば、滞納した税金は個人再生をしても減額の対象となりません。
暴力や詐欺行為などによって生じた損害賠償金も非減免債権扱いとなり減額の対象外となります。
このように個人再生をしても変わらずに支払いをしていかないといけない債権は多いですが、税金などであれば事情を話せば支払いを猶予してもらうこともできるようになります。
そのため、こういった非免責債権が支払えないようであれば、市役所などのしかるべき機関に相談することも大事です。
債務が住宅ローンのみの場合は個人再生できる?
住宅ローンの負担は大変重いものです。そのため、住宅ローンが支払えなくなって個人再生を検討する人もいるでしょう。
借金が住宅ローンだけの際にも、個人再生をすることはできます。
しかし、住宅ローン特則を利用して個人再生をすることはできなくなりますから、個人再生をしても借金額は一切減額されません。
そのため、債務が住宅ローンだけなのであれば任意整理や特定調停によって債務支払条件を協議することによって問題解決を図った方が良いこともあります。
個人再生のメリット
とはいえ、個人再生をするメリットもいくつかあります。
個人再生によって、返済期間を最長で10年間延長してもらえる場合がありますし、元本は据え置きで返済していけることもあります。
また、住宅ローン会社と合意したその他の条件で返済できることも。
しかし、個人再生には弁護士費用などのコストもかかることから、人によっては個人再生のメリットがほとんどないことも。
そのため、「本当に個人再生をしたほうが良いのか」といったことは弁護士と一緒に考えておきましょう。
個人再生後はローン審査に通らなくなる?
個人再生後に、住宅ローンを契約したくなることもあるでしょう。
しかし、個人再生をしてから一定期間は住宅ローン契約をするのは難しくなります。
これは信用情報機関に個人再生者の情報が掲載されてしまうためです。
信用情報機関にはCICやJICC、KSCがありますが、その登録期間も信用情報機関によって変わってきます。
例えば、JICCであれば最長でも5年間です。一方、CICでは個人再生者の情報は登録されません。
そのため、CICの情報を利用している金融機関であれば個人再生後もローン審査が比較的簡単に受けられるようになります。
KSCだと最長で10年間の長期にわたって情報が掲載されることになります。
また、こうした情報が抹消胃されても安心はできません。
たとえ情報が消されても、ローン会社が独自に持っている事故情報の存在があるからです。
例えば、個人再生の際に対象としたローン会社に再び住宅ローンを申し込んでも、その会社で契約することは困難となります。
住宅ローンの借り換えについて
個人再生後は、自由に住宅ローンを借り換えすることも困難になります。
これは紹介したように信用情報機関に事故情報が登録されるためです。
そのため、個人再生をしてから5年~10年の間は借り換えをするのは難しいと考えておきましょう。
また、この期間中であっても借り換えできるような住宅ローン会社もありますが、基本的にこうした会社は信用できません。
違法な金利で借り換えしないといけなくなることもありますから、安易に借り換えしないようにしておきましょう。
個人再生と住宅ローン特則まとめ
・住宅ローン特則を利用すれば、連帯保証人に影響が出ない
・住宅ローン特則にはいくつか利用条件がある
・住宅ローン特則時にはそのことを受任通知に明記しておく必要がある
・住宅ローンを滞納していても、「住宅ローンの巻き戻し」をすることができる
・遅延損害金が発生している場合は支払う必要がある
・住宅ローン債務だけでも個人再生は可能
自宅を失いたくない方は、住宅ローン特則を大いに利用しておきたいところです。
とはいえ、条件を満たしていないと利用することができません。
まずは専門家に相談して、「自分は住宅ローン特則を利用できるのか?」「本当に個人再生が合っているのか?」などを聞いてみるといいでしょう。