自己破産しても残せる自由財産とは?破産後に残る/処分される財産はコレ!

自己破産しても残せる自由財産とは?破産後に残る/処分される財産はコレ!

自己破産をすると「全ての財産が没収される」と思っている方も多いのではないでしょうか?

 

たしかに車や不動産などの財産は没収され、債権者に平等分配されます。
ですが全財産が処分されるわけではなく、「自由財産」と呼ばれるものは自己破産後も手元に残すことができます。

 

今回は、「自己破産をしたら処分される財産」と、「自己破産後も残せる自由財産」について詳しく解説していきます。

 

 

自己破産で没収(処分)される財産

自己破産は、破産者の財産を金銭に換えて、それを債権者に分配する方法です。

 

そのため、換金できる財産は処分して、少しでも債権者への弁済に充てる必要があります。
自己破産で処分・没収の対象となる財産としては、次のようなものがあります。

処分・没収の対象となる財産

  • 現金(預貯金が99万円以下になるまで没収)
  • 不動産(土地や建物など)
  • 自動車・バイク(査定価格が20万円以上なら没収)
  • 財布やバッグなどのブランド物(査定価格が20万円以上なら没収)
  • 生命保険などの解約返戻金
  • その他(請求権などの債権、著作権、お金に換えられるもの)

 

先述のように、車や不動産などの財産は没収されてしまいます。
しかし自由財産として扱われるものは、自己破産をしても手元に残すことができます。

 

自己破産しても処分対象にならない「自由財産」とは?

自由財産とは、自己破産しても処分しなくてもよい財産のことをいいます。

 

破産手続きの目的は、破産者を「懲らしめる」のではなく、「救済・更生」が目的です。
仮に破産で財産をすべて取り上げてしまうと、破産者はその後の生活をしていくことができません。
そのため、「生活に必要な最低限の財産は没収しないでおこう」というものです。

 

法律上では、処分しなければならない財産を「破産財団」と呼び、それ以外の破産者が自由に処分できる財産を「自由財産」と呼びます。

 

「自由財産」にあたるもの

何が自由財産にあたるかについては、「破産法(34条3項1号・2号、4項、78条2項の12)」に詳しく記載されていて、具体的には次のような財産が自由財産として扱われます。

 

「自由財産」にあたるもの

新得財産
差押禁止財産
99万円以下の財産
自由財産の拡張がなされた財産
管財人によって破産財団から放棄された財産

 

①~③までの財産(新得財産、差押禁止財産、99万円以下の財産)が本来の自由財産で、④~⑤の財産は必要な場合に認められるものと理解しておいてください。

 

それぞれについては、以下で詳しくみていきましょう。

 

手続き開始後に得た「新得財産」

新得財産とは、破産手続き開始後に新たに得た財産のことをいいます。

 

破産法では、破産手続きを開始したタイミングを基準にして、破産財団(処分する財産)の範囲を決めています。

これを「固定主義」といいます。

 

そのため「破産管財人(財産を調査・査定・処分する人)」は、破産者が手続き開始後に得た財産に対しては手を付けることができません。
つまり、新得財産は換価処分ができない、ということになります。

 

新得財産の具体例としては、次のようなものがあります。

破産手続きをした後の…

  • 相続で得た財産
  • 給与
  • 退職金(手続き後に働いて得た部分)
  • 宝くじの配当金

 

以上のような財産は新得財産になりますので、破産財団(処分される財産)には組み込まれず、手元に残すことができます。

 

生活に必要な「差押禁止財産」

差押禁止財産とは、民事執行法に規定されている「差押禁止債権」「差押禁止動産」を指します。

 

差押禁止債権・・・差押が禁止されている「債権」
差押禁止動産・・・差押が禁止されている「動産」

 

差押禁止債権の対象となるもの

差押禁止債権では、主に「生活に必要な債権」が対象となります。

 

例えば、生活保護費や年金などがこれにあたります。

もっとも、破産財団から発生した家賃などは自由財産の拡張に当たらない限り、含まれません。

 

差押禁止動産の対象となるもの

差押禁止動産では、「日常生活や社会生活で必要なもの」が対象となります。

 

例えば、電話・テレビ・パソコンなどの家電、家具、寝具、自転車、などとなります。
また、仮に家屋などの大きな所有財産であっても、名義人が破産者でなく、家族の場合は没収されません。

 

99万円以下の現金

破産法では、次のような金銭は破産財団にならないとしています。

【破産法34条3項1号】

民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百三十一条第三号に規定する額に二分の三を乗じた額の金銭

 

つまり、詳細は割愛しますが、「99万円以下の現金は自由財産である」ということを規定しています。

 

預貯金は「現金」とは別物?

感覚的には現金に近いので、「預貯金も99万円以下の現金に含まれるのでは?」と思いますよね。

 

しかし結論からいうと、預貯金債権は自由財産に含まれません。

 

銀行預金はあなたの財産ですが、実際にそのお金を持っているのは銀行になります。
したがって、「銀行が所有するシステムにお金を預けている」という形になり、「あなたと銀行はお金を預ける契約を結んでいる」ことになります。

 

そして、現金を引き出す際は「返してね」という権利に基づき、あなたの財産を引き出していることになります。

これを法的にいうと、「預貯金払戻し請求権」となります。

 

つまり「お金を返してね」という権利は、「債権」ということになります。
そして、この債権は「差押禁止債権」や「99万円以下の現金」といった自由財産には当てはまりませんので、破産財団として処分されることになります。

 

このように、一見現金と思いがちな預貯金ですが、実際は「現金」ではなく「債権」として扱われるということを理解しておきましょう。

 

自由財産の拡張

前項目では、”預貯金は「債権」として扱われ、処分されることになる”と説明しました。
しかし、「必ずしも預貯金が没収される」という訳ではありません。

 

それはどいった状況かというと、「自由財産の拡張」により、残高が20万円未満の預貯金は自由財産として扱われる場合もあります。

 

「自由財産の拡張の裁判」とは?

自由財産の拡張の裁判とは、自由財産として法律上認められている以外のものについて、自由財産の拡張が認めるかどうかの裁判のことをいいます。

 

自由財産の拡張の裁判は、まず破産申請人が申告し、それを破産管財人が調査します。
そしてその調査に基づき、裁判官が自由財産の拡張を認めるかの判断を下します。

 

この裁判を簡略化するため、それぞれの裁判所では「換価基準」というものを設けています。
換価基準に適合する財産は、法律上定められた自由財産ではないものの、当該裁判所においては、自由財産と認められる運用となっています。

 

東京地裁の預貯金の取扱い

例えば、東京地方裁判所では、預貯金債権の合計が20万円以下の場合は、自由財産として扱うという「換価基準」を定めています。

複数の口座がある場合は合計した金額。

 

ちなみに、「換価基準」に当てはまる場合は、自由財産の拡張の裁判を経ることなく、自由財産として認められます。

 

この基準は、ベーシックな基準ではありますが、他の裁判所でも同様に運用されている可能性があります。
あらかじめ自分が申し立てる裁判所の「換価基準」をチェックしておくとよいでしょう。

 

自己破産しても処分されない財産まとめ

新得財産
  • 相続で得た財産
  • 給与
  • 退職金(手続き後に働いて得た部分)
  • 宝くじの配当金

差押禁止財産
  • 生活保護費
  • 年金
  • 家具家電
  • 99万円以下の現金
その他

▼換金価値が20万円以下のもの

  • 生命保険
  • 持ち株
  • ゲーム機
  • ぬいぐるみ

など

 

財産なし(無一文)の人が自己破産するとどうなる?

通常、自己破産をすると現金(99万円を超える場合)や家・車などの財産は換価処分されます。
その場合は差押えた財産を管理したり換金する破産管財人を雇う必要があるので、「管財事件」として処理されます。

 

しかし、最初から無一文であったり、財産をほとんど持っていなかったりする場合は、「同時廃止」として処理することになります。
同時廃止とは簡単にいうと、簡略化した破産手続きのことです。

 

そもそもの財産が無ければ管財人を雇わなくていいので、必要ない行程はカットしてしまおう!というものです。
簡略化したぶん通常よりも早く&安く手続きが完了します。

 

自己破産を選ぶ方は換金できる財産がない場合が多いので、同時廃止となることがほとんどです。

 

自己破産で申告漏れや財産隠しがあると免責不許可になる?

破産申立の際に申告漏れがあるとどうなる?

では、意図的ではない財産の申告漏れがわかった場合はどうなるのでしょうか。

 

まず、原則として財産は基本的に申立て時に申告しなければいけません。これをしなかった場合、「自由財産の拡張」の裁判をしたいときに困ることになります。というのも、「自由財産の拡張」は破産申請の申立て時に提出していない財産については認めてもらえないからです。「これは申告する必要ないだろう」と早合点せず、財産になるものは全て弁護士に申告し、適切な判断ができるようにしておきましょう。

 

次に、意図的ではなくても、財産の申告漏れが「罪に問われる」可能性や免責不許可事由にあたる可能性はあるのでしょうか。
まず、免責不許可事由にはなりません。自己破産が認められない事由である免責不許可事由はあくまで「故意」の財産隠しや不正などであり、うっかりミスは誰にでもあるのでこれを責めることはありません。また、詐欺破産罪(破産法265条)などの罪に問われることもないので、大丈夫です。
もっとも、自己破産前の名義変更や無償譲渡は、財産隠しの意図があるとして免責不許可事由と判断されてしまう場合もありますので、注意が必要です。

 

意図的な財産隠しがバレると罪に問われる?

では、意図的に財産隠しをした場合は、どうなるのでしょうか。

 

破産手続きでは、申告した書類に記入してある財産を元に、財産の処分などが行われます。もっとも、預金口座や給料明細、課税証明書、など2年間のお金の入出金などがしっかりチェックされるため、財産を隠していることがバレると罪に問われることもあります。例えば、口座隠しや現金隠し、自己破産前の名義変更や無償譲渡なども財産隠しにあたります。

 

仮に、意図的な財産隠しが発覚すると、免責不許可事由(破産法252条1項1号)にあたり、自己破産自体認めてもらえないこともあります。また、免責許可後に発覚した場合は免責決定の取消し(同法254条)もありえます。さらに、これだけではなく詐欺破産罪(同法265条)を課せられることも考えられます。この罪に問われると、「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金」が課せられる可能性があります。重い罪なので、決して故意で財産隠しをするようなことはしないでください。

 

どうしても、処分されたくない財産がある場合は、しっかりと破産申請の申立て時に申告して「自由財産の拡張の裁判」で認めてもらうような方法をとりましょう。先述した通り、破産申請の申立て時に提出していない財産は「自由財産の拡張」が認めてもらえませんので注意が必要です。
このように意図的に財産隠しをした場合、自己破産が認めてもらえないだけでなく、懲役刑の可能性でもあります。安易な考えで意図的な財産隠しをするようなことは、絶対ないようにしてください。

 

自己破産の財産調査は誰が行うの?

破産申請者の財産調査は、「破産管財人」が行います。

 

破産管財人は、管財事件(少額管財も含む)の場合に選任され、弁護士であることが一般的です。

 

同時廃止・・・財産がない(少ない)場合。費用も安く、期間も短い。
管財事件・・・財産がある場合。費用が高く、手続きに時間がかかる。

 

財産調査の資料が免責の判断材料になる!

基本的に、財産調査は申立て時に提出した「財産目録」をもとに行われます。

 

そして破産管財人が、「それが正しいかどうか」や「申告漏れ・財産隠しがないか」といった部分まで、踏み込んで調査していくことになります。

 

財産調査の流れ
①破産管財人への説明

まず、破産者には破産管財人に対する説明義務(破産法40条1項)があります。
財産に関し説明を求められたら、答えなければいけません。

 

嘘をついたり、意味なく拒絶したりすると、自己破産自体を認めてもらえない(免責不認可)だけではなく、罰則が課せられる可能性もあります。

 

②物件調査

このほかに、破産管財人は物件検査も行います。
具体的には、所有数する不動産の査定額照会などをします。

 

③郵便物のチェック

さらに、必要があれば、郵便物のチェックも破産管財人は行います。
全ての郵便物が破産管財人に届くようにし、財産隠しがないかのチェックを行います。

 

④債権者集会

また、債権者集会も破産管財人が開くことになっています。

 

このように、破産管財人の調査は厳しいものとなります。
一時的にではあっても郵便物のチェックまで実行されると、精神的に辛い状況になるかもしれません。

 

また、財産隠しは破産管財人のチェックにより見つかります。
あらかじめ、しっかりと申告しておくようにしましょう。