ハードシップ免責とはどのような制度なのか詳しく解説

ハードシップ免責とはどのような制度なのか詳しく解説

個人再生する際にはハードシップ免責についても知っておこう!

返済が困難なた人が生活を立て直すために借金を減額、若しくは免除してもらう方法として債務整理というものがあります。

 

そのなかの個人再生という手続きは、裁判所に申し立てを行い借金の額を圧縮して貰い(おおむね5分の1)、それを3年から5年をかけて返済できれば残りの借金は免除されるというものです。

 

再生計画どおりに返済すれば大幅に借金を減額できるというのが個人再生の大きなメリットですが、病気による長期入院や予期せぬ事故、リストラなどにより再生計画どおりに返済するのが難しくなってしまうことも考えらえます。

 

このようなケースに陥ってしまった場合「ハードシップ免責」という制度が最終的な救済措置となるのをご存じですか?
この記事では個人再生における最終手段ともいえる「ハードシップ免責」ついて詳しく解説していきます。

 

 

ハードシップ免責とはどんな制度なのか?

借金が全額免除となる自己破産と違って個人再生は、借金の額を大幅に減額することによって個人の経済的な再建を目的とした債務整理方法です。自己破産ほど大きなデメリットもなく、借金の額を大幅に圧縮(おおむね5分の1)できる個人再生ですが、一定期間は返済し続けなければなりません。しかし、病気や怪我、リストラなど何らかの事情により裁判所に認められた再生計画どおりに返済できなくなってしまったときには、個人再生計画は取り消されてしまいます。給料が減額されてしまったような場合であれば再生計画の変更・延長などで対応するのが通例ですが、「そもそも働けなくなってしまった」場合や「収入自体がなくなってしまった」場合には再生計画を変更・延長しただけではどうすることもできません。このように個人再生計画どおりの返済が不可能となってしまった場合は、本来であれば自己破産の手続きを行い免責許可を得る必要があります。しかし、これまでコツコツと返済を続けてきて「あと少しで支払いが終わるはずだったのに・・」というケースにまで、原則どおり自己破産しなければならないというのではあまりに酷い話です。そこで個人再生が難しくなってしまった債務者でもある一定の条件さえ満たしていれば、残りの借金の支払い免除を受けることができる「ハードシップ免責」という制度が誕生したのです。

 

 

ハードシップ免責が認められる要件はきびしいって本当?

本来、借金を免除して貰うためには裁判所に自己破産の申し立てを行って免責許可を得る必要があるのですが、そのような申し立てを必要とせず残りの借金の支払い義務が免除されるハードシップ免責はかなり特殊な制度であるといえます。そのため、ハードシップ免責が認められる要件は限定的で、かなり厳しい条件が求められています。ハードシップ免責が認められるには以下の4つの条件を全て満たす必要があるのですが、それぞれの条件を詳しく解説していきます。

 

ハードシップ免責が認められるための4つの条件

①再生計画で決められた弁済額の4分の3以上を返済している

ハードシップ免責を受けるための大前提として再生計画で決められた額の4分の3以上を返済している必要があります。たとえば3年間の個人再生計画の場合はその4分の3以上となる2年4カ月は経過していないと、ハードシップ免責は認められないということになります。

 

②債務者の責めに帰すことのできない理由により再生計画どおりの返済が困難となったこと

「債務者の責めに帰すことのできない理由」とは、重い病気や怪我で長期入院が必要となった場合や、リストラにより職を失ってしまったなど、債務者に過失や故意がないことをいいます。ギャンブルで返済にあてるお金を失ってしまった場合や、遅刻や欠勤が多く会社をクビになってしまった場合などは債務者に過失があることになるので当然ですがハードシップ免責は認められません。

 

③ハードシップ免責の決定が債権者の一般の利益に反しないこと

「債権者の一般の利益に反しない」とはハードシップ免責によって債務者が残りの借金の返済を免除されたとしても、最初から自己破産をしていたよりは債務者に対して多くの金額を返済している状態であることをいいます。※自己破産をすると債務者の持ち家や車は売却され債権者への返済に充てられるのですが、その額よりも個人再生での弁済額が1円でも多い必要があります。分かりやすく式で表すと「最初から自己破産をしていた場合に債権者が受け取れた金額」<「個人再生でこれまでに返済した額-ハードシップ免責による免除額」となります。

 

④再生計画を変更・延長したとしても返済の継続が極めて困難であること

個人再生計画が難しくなってしまった場合でも、やむをえない理由があるときには再生計画を延長(最長2年)することは可能です。しかし、債務者の責めに帰すことのできない理由により職を失ってしまった場合など再生計画を変更・延長しても返済が不可能となってしまった場合にはハードシップ免責が認められる可能性があります。

 

ハードシップ免責はどれくらい利用されているの?

ハードシップ免責は個人再生計画を進めることが困難になってしまった人を救済する措置として誕生した最終手段のような方法ですが、前述した通りその適用条件は非常に限定的で厳しい条件となっています。そのため、実際にはハードシップ免責はほとんど利用されていないのが現実です。東京地裁や大阪地裁など大都市圏の裁判所で年間数件程度。地方の裁判所ではハードシップ免責が認められた事例はほとんどないようです。

 

 

どのようなケースならばハードシップ免責を検討した方がいいのか?

それではハードシップ免責はどのようなケースの時に検討すればよいのかについて説明します。裁判所に再生計画が認められた再生債務者は、計画どおりに返済を続けていくことなります。しかしその再生計画中に給料が下がってしまったり、リストラされてしまったりしたケースで、これまでに再生計画で決められた弁済額の4分の3以上を弁済しているという人は、ハードシップ免責を検討する価値が充分にあるといえます。もし再生計画どおりの返済が困難となってしまった場合に、個人再生計画の変更・延長やハードシップ免責の申し立てをしなかった場合どうなるのかというと、裁判所に「再生計画の遂行見込みなし」とみなされてしまい再生計画自体が取り消されてしまうこともあります。そうなると再生計画は最初からなかったことにされてしまうので、圧縮された債務の全額を返済する必要が生じます。当然ですが経済的にピンチであるにも関わらず圧縮された債務の全額返済などできるわけがありませんので、最悪の場合は自己破産をするしかなくなってしまいます。そうならない為にも、再生計画で決められた弁済額の4分の3以上を返済している、もしくはもうすぐ返済するという人で、再生計画どおりの返済が困難となってしまった場合には速やかにハードシップ免責や再生計画の変更・延長の申し立てを行うようにしましょう。

 

 

住宅ローン特例を受けている再生債務者がハードシップ免責を利用するとどうなる?

自己破産の場合は持ち家は当然手放さなければなりませんが、個人再生の場合は「本人が所有している住宅であり、現在居住していること」を条件として住宅ローンの支払いを続けながら持ち家を残すことが可能です。それではこの住宅ローン特例を受けて、現在住宅ローンを返済中の人がハードシップ免責を利用すると住宅ローンはどのようになってしまうのでしょうか。民事再生法235条6項においてハードシップ免責の効力は以下のように定められています。

 

民事再生法235条6項ハードシップ免責の効力

免責の決定が確定した場合には、再生債務者は、履行した部分を除き、再生債権者に対する債務(第二百二十九条第三項各号に掲げる請求権及び再生手続開始前の罰金等を除く。)の全部についてその責任を免れる。
ここにあるように免責の除外規定には住宅ローンは含まれていません。つまりハードシップ免責を利用すると住宅ローンも他の債権と同様に残りの額が免除されることになります。ただし、ハードシップ免責の確定は債権者の担保権には影響を及ぼしません。そのため住宅ローン特例を受けている再生債務者がハードシップ免責を利用した場合には、債権者は自分の持っている抵当権を利用して債務者の住宅を競売にかけて売却し残債を回収することになるでしょう。ようするに他の借金だけ帳消しにして貰って、住宅ローンだけ残す(持ち家を残す)ということはできないということです。

 

 

ハードシップ免責の手続きの流れを解説

ハードシップ免責の手続きの流れは次の通りです。
その1 裁判所に対して債務者が「ハードシップ免責」を求める申立書を提出する。※申し立てを行えるのは債務者に限られる。
その2 裁判所は申し立て書を検討してハードシップ免責を認めるか、認めないかを決定する。
その3 裁判所にハードシップ免責が認められると、債務者は履行した部分を除き残りの借金全額の支払い義務が免除される。※ただし、再生計画認可決定日から7年間は自己破産による免責は不可能になります。

 

ハードシップ免責の書式はどこで貰えるの?

ハードシップ免責の書式にはこれでなければならないという決まったものはないのですが、最低限記入しなければならない事項がいくつかあります。(名前、住所、再生事件の表示、申し立ての趣旨、申し立て理由等)そのため個人でハードシップ免責の申し立てを行う場合には、日本弁護士連合会のホームページにある「個人再生手続参考書式」から免責申立書(ハードシップ免責)をダウンロードして利用するがのお手軽なのでおすすめです。また、このサイトには記入例なども詳しく紹介されているので、個人でも比較的スムースにハードシップ免責申立書の作成ができるはずです。

 

 

個人再生計画通りの返済が難しくなったら早めに弁護士に相談しよう!

これまで説明してきた通り、個人再生計画通りの返済が難しくなってしまった場合になんの手段も講じないでいると最悪の場合、個人再生計画が白紙に戻されてしまい自己破産するしか道がなくなってしまう可能性も考えられます。ハードシップ免責の適用条件は非常に厳しいですが、これまでコツコツと返済してきた努力を無駄にしないためにも個人再生計画通りの返済が難しくなってしまった場合には早めに法律の専門家である弁護士に相談するのがおすすめです。きっと借金返済に向けて力になって貰えるはずですよ。

 

その他の債務整理について

債務整理には、債務者と債権者とが話し合いを行って借金を減額する「任意整理」の他に、裁判所を通じて借金を全額免除してもらう「自己破産(免責・破産)」と借金の額を5分の1にまで減額してもらう「個人再生」の3つの方法があります。

 

 

個人再生する際にはハードシップ免責についても知っておこう!まとめ

個人再生の最終的な救済処置であるハードシップ免責について詳しく解説してきました。病気や怪我などのアクシデントに見舞われてしまい、どうしても個人再生計画通りの返済が困難になってしまった場合には、まずは再生計画の変更や延長を申し立て、条件に適用するようならばハードシップ免責を認めてもらいましょう。なにもしないでいると再生計画が白紙になってしまい、最悪の場合自己破産するしかなくなってしまいますよ。